再生医療の基本用語を解説
「再生医療とは、どのような医療なのか」「幹細胞治療や細胞治療と同じものなのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。再生医療に関する情報では、再生医療等製品、組織工学、遺伝子治療など、意味や制度上の位置づけが異なる言葉が一緒に使われています。
再生医療とは、細胞などを利用し、損なわれた身体の構造や機能の再建、修復、形成、病気の治療や予防を目指す幅広い医療分野です。単一の治療法ではなく、実用化された治療から研究段階の技術まで含まれます。
この記事では、再生医療の基本的な仕組みや具体例、再生医療等製品との違い、治療と研究を見分けるポイントを順番に解説します。
再生医療とは何かをわかりやすく解説
再生医療では、患者本人や他人の細胞を加工して使う方法、細胞と足場となる材料を組み合わせる方法などが検討されます。なお、2025年5月31日施行の改正法では、法律上の「再生医療等」に一定の核酸等を用いる医療技術も含まれています。
再生医療が目指すこと
再生医療の主な目的は、病気やけがで損なわれた身体の構造または機能について、再建、修復、形成を目指すことです。細胞を補うだけでなく、体内に残っている細胞の働きや組織修復を支える考え方もあります。
症状が改善することと、組織そのものが元の状態に再生することは同じではありません。期待できる結果は、治療法や患者の状態によって異なります。
従来の治療との考え方の違い
薬物療法は薬によって症状や病態へ働きかけ、人工関節などを使う治療は人工物によって機能を補います。これに対し、再生医療では細胞や組織が持つ機能を利用する場合があります。
再生医療は従来の治療を一律に置き換えるものではありません。疾患や重症度によっては、手術、薬物療法、リハビリテーションなどとの併用も検討されます。
再生医療を理解するための基本用語
関連用語の分類は、法令、学術分野、研究事業によって異なる場合があります。広告や医療機関の説明を見るときは、何を使い、何を目的とする治療なのかを確認することが大切です。
細胞治療
細胞治療とは、採取した細胞を必要に応じて培養・加工し、患者へ投与または移植する治療です。本人の細胞を使う方法と、他人に由来する細胞を使う方法があります。目的やリスクは、細胞の種類、加工方法、投与部位などによって異なります。
細胞を投与すれば、目的の組織がそのまま再生するとは限りません。また、免疫機能などを利用し、組織再生を直接の目的としない細胞治療もあります。
自家細胞と他家細胞
自家細胞は治療を受ける本人から採取した細胞、他家細胞は本人以外の提供者に由来する細胞です。免疫反応、製造方法、準備期間、品質管理などの論点が異なります。自家細胞であればリスクがない、他家細胞であれば危険というわけではなく、治療法や製品ごとの評価が必要です。
幹細胞と分化した細胞
幹細胞は、自ら増える能力と、特定の役割を持つ細胞へ分化する能力を備えた細胞の総称です。体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞では由来や性質が異なります。再生医療では、幹細胞を使う場合のほか、目的の細胞へ分化させてから使う場合もあります。
iPS細胞などが研究されていることと、一般診療で利用できることは別です。
組織工学
組織工学とは、細胞、細胞が育つ足場となる材料、成長や分化を支える環境などを組み合わせ、組織の修復や形成を目指す考え方です。培養した細胞をシート状や立体的に構成する技術が例として挙げられます。
組織工学を利用しても、臓器を自由に作れるわけではありません。また、足場材料を使う技術が法律上すべて再生医療等に該当するとも限りません。
遺伝子治療との関係
遺伝子治療には、体内へ遺伝子を導入する方法と、体外で細胞に遺伝子を導入してから患者へ戻す方法があります。遺伝子改変した細胞を使う治療は、細胞治療と遺伝子治療の両面を持つ場合があります。
遺伝子治療と再生医療は完全な同義語ではありません。ただし、薬機法上の再生医療等製品には、遺伝子治療用製品も含まれます。
再生医療の仕組みと具体例
代表的な流れは、細胞の採取、加工、品質確認、投与または移植、経過観察です。ただし、既製の他家細胞製品や遺伝子治療用製品などでは工程が異なります。
細胞を採取して加工する流れ
自家細胞を使う治療では、まず患者から目的に応じた細胞や組織を採取します。その後、必要に応じて細胞の分離、培養、増殖、分化、遺伝子導入などを行い、性質や汚染の有無を確認します。加工した細胞や組織は目的部位へ投与・移植され、経過観察が続きます。
品質管理を行っても、治療に伴うリスクがなくなるわけではありません。
組織の修復を目指す例
組織修復を目指す例には、培養表皮を用いる皮膚領域の治療や、自家培養軟骨を用いる治療があります。細胞をシート状に加工した製品も、組織工学を応用した例です。
対象疾患や使用条件は製品ごとの承認内容で定められています。皮膚や軟骨に関係するすべての病気へ使用できるわけではないため、添付文書などの確認が必要です。
細胞の機能を治療に利用する例
再生医療等製品には、細胞が持つ免疫調節機能などを治療へ利用するものもあります。遺伝子改変した免疫細胞を使う治療は、細胞治療と遺伝子治療が重なる例です。つまり、見た目に組織を作り直すものだけが対象ではありません。
適応疾患、投与条件、副作用への対応体制は製品ごとに異なります。
研究が進められている技術の例
iPS細胞などから目的の細胞や組織を作り、移植する研究が進められています。立体的な組織や臓器に近い構造を作る研究もありますが、開発段階は技術ごとに異なります。動物実験、初期の臨床研究、検証的な試験、承認審査など、実用化までには複数の段階があります。
研究成果が報道されても、すぐに一般診療で受けられるとは限りません。
再生医療と再生医療等製品の違い
再生医療が医療や研究の広い分野を指すのに対し、再生医療等製品は薬機法で定められた製品区分です。この違いを理解すると、製品承認と医療機関による治療の提供を分けて考えやすくなります。
再生医療等製品は薬機法上の製品区分
再生医療等製品には、加工した人または動物の生きた細胞を用い、身体の構造・機能の再建や修復、病気の治療などを目的とする製品が含まれます。人の病気の治療を目的とする遺伝子治療用製品も対象です。
再生医療等製品は、再生医療という分野全体ではなく、法令上の製品区分を指します。承認品目や添付文書、審査報告書はPMDAで確認できます。
承認済み製品を用いる治療
製造販売承認では、製品ごとに提出された資料をもとに品質、有効性、安全性などが審査されます。使用は承認された対象疾患や方法の範囲内が基本です。一定の要件を満たす製品では、条件及び期限付承認が用いられ、承認後も評価が続く場合があります。
承認済みでも、すべての患者に効果が得られることや副作用が起こらないことを保証するものではありません。保険適用の有無も別に確認します。
医療機関で加工細胞を用いる治療
対象となる再生医療等を医療機関が提供する場合、再生医療等安全性確保法に基づく手続が必要です。生命や健康への影響の程度に応じて第一種、第二種、第三種に分類され、委員会による審査や提供計画の提出などが行われます。これは有効性の高さによる分類ではありません。
提供計画の提出や公表は、国による製品の製造販売承認を意味しません。
医療として提供される再生医療と研究段階の違い
医療機関で行われる再生医療には、患者への治療、臨床研究、承認取得を目指す治験などがあります。医療機関で受けられるという一点だけでは、その位置づけや根拠の程度までは判断できません。
患者への治療を目的とする提供
治療としての提供は、目の前の患者に適した医療を行い、その患者が利益を得ることを主な目的とします。再生医療等安全性確保法に基づく提供計画は、厚生労働省の公開情報から確認できます。
「治療」として区分されていても、承認済みの治療や標準治療と同じ意味ではありません。説明同意文書で、利益と不利益、代替治療、費用、健康被害への対応を確認しましょう。
新たな知見を得るための臨床研究
臨床研究は、治療法の安全性や有効性などについて新しい知見を得る目的を持ちます。対象者の条件、評価項目、研究期間などは研究計画で定められ、再生医療等研究の情報はjRCTで検索できます。
研究参加によって本人に効果が得られるとは限りません。参加は任意であり、参加を断ることや同意を撤回することについても説明を受けます。
承認を目指して行う治験
治験は、医薬品や再生医療等製品などの製造販売承認申請に必要なデータを集める臨床試験です。試験ごとに参加条件、比較方法、評価項目が決められています。治験中の製品は、原則として対象の適応で製造販売承認を得る前の段階です。
治験への参加は、将来の承認や参加者本人への効果を保証するものではありません。
医療機関で受けられることと有効性の確立は別
自由診療を含め、医療機関で提供されているという事実だけでは、標準治療と同程度の根拠があるとは判断できません。提供計画に関する手続と、薬機法に基づく製品承認では目的が異なります。
症例写真や体験談だけで有効性を判断せず、比較対象や研究方法などを確認することが重要です。標準治療を受けない場合の不利益も含め、専門医へ相談してください。
再生医療を検討するときの確認ポイント
再生医療を検討する際は、治療名だけで判断せず、使用する細胞や製品、法的な位置づけ、対象疾患を確認します。利益だけでなく、リスク、代替治療、費用、治療後の対応も意思決定の材料です。
治療や製品の位置づけを確認する
承認済み再生医療等製品を使うのか、医療機関で加工した細胞などを使うのかを確認しましょう。製品なら販売名、対象疾患、使用方法をPMDAで調べられます。法に基づく治療は厚生労働省の提供計画、研究はjRCT番号や研究目的を確認します。
公的データベースへの掲載だけで、治療の有効性が保証されるわけではありません。
期待できる利益とリスクを確認する
どの症状や機能の改善を目指すのか、根拠となる研究が自分と近い状態の患者を対象としているかを確認します。感染、免疫反応、細胞の採取や投与に伴う合併症など、想定される不利益は治療法ごとに異なります。
効果が得られなかった場合や有害事象が生じた場合の診療体制も確認が必要です。長期的な影響が十分に分かっていない場合もあります。
費用と代替治療を確認する
保険診療か自由診療かを確認し、検査、細胞の保管、複数回の投与、治療後の通院などに追加費用が発生するか説明を受けます。現在利用できる標準治療との利益・不利益も比較しましょう。
治療を受けない選択や経過観察も含めて検討することが大切です。健康被害が起きた場合の補償や相談窓口も説明文書で確認します。
公的情報と専門医の説明を組み合わせる
PMDAでは承認製品の添付文書や審査報告書、厚生労働省の公開情報では治療として提出された提供計画、jRCTでは臨床研究の目的や状況を確認できます。ただし、公的情報だけで個人の適応を判断することはできません。
広告や体験談に偏らず、対象疾患を専門とする医師の説明と組み合わせて判断しましょう。分からない用語は同意前に質問してください。
まとめ
再生医療とは、細胞などを利用し、身体の構造や機能の再建、修復、形成、病気の治療や予防を目指す幅広い分野です。細胞治療、組織工学、遺伝子治療には重なる部分がありますが、同じ意味ではありません。また、再生医療等製品は薬機法上の製品区分であり、再生医療全体とは区別する必要があります。
医療機関で提供されるものには、承認済み製品を使う治療、再生医療等安全性確保法に基づく治療、臨床研究、治験などがあります。提供計画が提出されていることと、製品の有効性や安全性が国に承認されていることも同じではありません。再生医療を検討している場合は、承認状況、利益とリスク、代替治療、費用を確認し、対象疾患を専門とする医師へ相談しましょう。